住宅建築にも影響している ウッドショックの概要と動向まとめ
2021年3月頃から、建築業界では「ウッドショック」という言葉をよく聞くようになりました。「ウッドショック」については、テレビ等ではあまり報道されていないので、一般には広く知られていない状況にあるかと思います。しかし現在、住宅の新築を検討されている方には、大きく影響してくる社会問題です。
今回は、一般の方にも大きく影響するウッドショックの問題点について、具体的内容を解説していきます。
「ウッドショック」とはなにか?
建築業界を揺さぶっている、「ウッドショック」については、住宅建築を検討している一般顧客への影響が多大であるにも関わらず、大々的には報道されておらず、「ウッドショック」という言葉自体聞いたこともない人もいると思います。
まずは、「ウッドショック」が起こった経緯について、詳しく説明していきます。
世界的な建築用木材の不足と価格高騰
「ウッドショック」とは、世界的に木材が供給不足となり、木材価格が高騰してしまうことを示します。過去には、1990年頃や、リーマンショック付近の2008年に木材価格の高騰が起きています。コロナ禍の2021年現在で言われている「ウッドショック」は3回目のウッドショックということになります。
今回は、「第三次ウッドショック」と呼ばれています。
日本においても、木材が不足する状況が数ヶ月続いております。2021年5月時点で、アメリカでの価格は昨年比3〜6倍程度、日本においては、1.5〜2倍になっていると、一部メディアで報道されています。
今回の「ウッドショック」は、材料の不足と輸送問題の2つの視点から問題が波及しており、日本国内においては、これに加えて国内の木材自給の問題が加わってきます。
2021年「ウッドショック」の要因
今回の「ウッドショック」の要因には、コロナウイルスが巻き起こしたパンデミックによる影響が大きく関係しています。
コロナウイルスのパンデミックは、私たちの暮らしや生き方への考え方だけでなく、暮らし方自体を突然大きく変化させました。そこから波及した影響が、世界的な木材供給の不安定化を招き、「ウッドショック」として問題視されている状況にあります。
日本国内における「ウッドショック」の背景には、3つの要因が絡んでいます。
アメリカ・中国などの経済大国での木材需要の増加
「ウッドショック」が突然発生した要因の1つが、「建築用木材の需要急増」です。コロナ禍でリモートワークが増加した影響により、都心部に集中していた人が、郊外の広い土地に一戸建てを購入するケースが増加しました。
ロイター通信によると、2021年3月の住宅着工件数は173万3000戸で、2006年6月以降の高水準です。2021年4月の住宅着工件数は、156万9000戸となっており、市場予想を下回ったものの、前年同月比(2020年4月-2021年4月比)で、67.3%の増加となっているとのことです。報道では、アメリカ中西部や人口密度の高い南部では住宅着工件数は減少したものの、北東部・西部などの人口密度がさほど高くない地域での増加が見られたとのこと。
このような背景下で、木材需要の拡大が昨年2020年より続いており、木材がアメリカ・中国に集中し、世界的な木材不足を招き、価格が高騰する事態に陥っています。
コロナパンデミックの影響によるコンテナ不足
「ウッドショック」を招いた要因の2つ目が、海上コンテナの不足です。
木材の運搬には、大量の海上コンテナを必要とします。
ですが、コロナパンデミックの影響とコンテナ生産量の落ち込みを背景として、巣ごもり需要による世界的な輸出入の増加により、欧米にコンテナが集中してしまい、アジア向けに輸送をするコンテナが足りないという状況になっています。
コンテナ不足の主な要因を要約
このコンテナ不足が輸送費の高騰を招き、輸入木材の価格高騰の要因の1つとなっています。
詳しく調べたい方は、2021年4月23日に開催された、「コンテナ不足問題に関する情報共有会合」の資料が、経済産業省HPに公開されていますので、こちらよりご確認ください。↓↓
日本国内の需要を国産材供給だけではカバーできない
上記の2つの要因を解決するために、日本国内の木材を使えばいいという意見もあるかもしれません。
しかし、日本では、建築用木材の大部分は輸入木材に依存しており、輸入が困難になったからといって国内生産の木材をいきなり増やすことが困難な状態なのです。
日本の木材自給率
林野庁:木材供給量及び木材自給率の推移
日本における木材自給率は、2019年の統計発表で、37.8%となっています。
残りの62%程度は海外からの輸入に頼っている状況です。
この37.8%という数字は、低いと感じられる人もいるでしょうが、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されてから、2019年までの9年間連続で上昇し続けての数字です。2010年時点での木材自給率は、今より10%以上低く、27%程度でした。
日本の木材自給率は、戦後の時点では90%以上を維持しており、日本は林業大国でした。しかし、戦後のエネルギー革命による石油時代の到来と、建築物の構造が木から鉄・コンクリートへ移り変わったことをきっかけに、日本の林業は衰退し、木材の自給率の大幅な低下を招くこととなりました。
日本の現状の林業状況から言って、国内の生産のみで需要を満たすことは非常に困難であることと、「ウッドショック」の打開策として、短期間で生産量を急増させることは困難です。
「ウッドショック」の流れの要約と今後の可能性まとめ
今回の「ウッドショック」に関する流れと今後の動向を最後にまとめます。
これまでの流れ
[ptimeline] [ti label=”” title=”2020年 新型コロナウイルスのパンデミック”]各都市ロックダウン〜経済回復〜巣ごもり需要増 アメリカの輸入量増→海上輸送体制の不安定化・輸送コストの高騰[/ti] [ti label=”” title=”アメリカでの戸建て住宅需要の急増”]コロナウイルスにより暮らし方に変化が生じ、アメリカ郊外で戸建て住宅の建築需要が急増した[/ti] [ti label=”” title=”木材需要の急増”]アメリカでの住宅需要急増による木材需要増・中国での木材需要増に伴い、木材価格が高騰[/ti] [ti label=”” title=”日本への木材輸出量が激減”]輸送問題と木材の需給バランスが崩れたことにより、日本向け木材輸出量が激減した[/ti] [/ptimeline]今後の流れ
[ptimeline] [ti label=”” title=”輸入木材不足により、国内での国産木材の需要増加”]輸入材不足に伴い、輸入材から国産材への切り替えが急増[/ti] [ti label=”” title=”国産材の需給バランスが崩れ、価格が高騰する”]国産材の製造が追いつかず、品薄化し、価格が高騰する。[/ti] [/ptimeline]ここまではほぼ確実に起きます。
現時点で、国産材の生産ラインをフル稼働しても安定化できない状況があり、価格高騰の動きもでています。
今後の可能性
[ptimeline] [ti label=”” title=”職人不足による建築コストの高騰”]木材不足に伴う工事の遅延と工期調整により、回復期に工事の集中が起こる。その結果、職人が不足し、建設コストの高騰を引き起こす。[/ti] [ti label=”” title=”木造建築の価格高騰による、鉄骨造・RC造の需要増”]木造建築のコストが高騰し、工期を優先させるため、鉄骨造やRC造への構造の切り替えが起き、鉄骨造・RC造の建築需要が高まる。[/ti] [ti label=”” title=”鉄骨造・RC造の材料コストが高騰”]鉄骨造・RC造の需要が増加した結果、鋼材価格が高騰する。 鋼材の原料である鉄鉱石は、ほぼ100%輸入依存のため、輸送問題の影響により価格高騰がより顕著になる。[/ti] [/ptimeline]今回のウッドショックについて、年単位での長期化はないと思いますが、数ヶ月続く可能性は十分にあります。
日本でも、リモートワークなどで働き方が変わった人たちが、住み替えを検討するケースが増えており、住宅需要は高まっている状況です。
住宅の建築を検討されている方は、「ウッドショック」による影響を気にしつつ、損をしない、社会情勢に振り回されないタイミングで、購入を検討された方が無難だと考えられます。
番外編 過去のウッドショックの概要
過去に発生した、第一次・第二次ウッドショックについて、簡単に概要を解説します。
第一次ウッドショック
1992年〜1993年に世界的な天然林の保護運動をきっかけとして、丸太の価格が高騰しました。
1990年にアメリカでの伐採規制・輸出規制
1992年にマレーシアでの伐採規制
これらがきっかけとなり価格高騰が発生し、現在も多用されている欧州(ヨーロッパ)木材の輸入が増加した。
第二次ウッドショック
2006年頃、木材価格は再び高騰します。
BRICs(ブリックス)と言われる2000年以降に著しい掲載発展を遂げた4ヵ国及び中国での木材消費の増加で供給が追いつかなくなり、木材価格が高騰しました。