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高野和明「13階段」の感想レビュー 憎しみの連鎖が生んだ衝撃のクライマックス

yuu(ゆう)

高野和明さんの「13階段」を読みました。
「13階段」は高野和明さんの単行本初出版作品です。

個人的には、ジェノサイドに続き2作品目。

高野和明さんの小説は、それぞれのテーマに対しての調査が徹底しており、その裏付けのあるストーリーなので、読んでいて非常にリアリティのある描写が多いのが特徴です。

「13階段」は死刑囚の冤罪を晴らすために、元刑務官と元囚人が奮闘するストーリです。冤罪に隠された謎、主人公の謎が物語のクライマックスで一気に明らかになっていきます。

この作品は、デビュー作でありながら、江戸川乱歩賞を受賞し、驚異的な速さで高い売り上げを記録した作品です。

高野和明「13階段」のあらすじ

犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。2人は、無実の男の命を救うことができるのか。

「13階段」の書籍情報

著 者高野和明
発行日2001年8月
発行元講談社
ジャンルサスペンス・ミステリー
受賞歴等第47回江戸川乱歩賞
著者のその他作品ジェノサイド、6時間後に君は死ぬetc               

高野和明「13階段」を読んだ感想とレビュー

死刑と冤罪をテーマに、それを晴らそうと動くのが、元刑務官と元囚人、そしてそれを取り巻く弁護士や検察官と、10年前の殺人事件の真相を暴くために、異色の登場人物たちが奮闘するという内容と設定に、読まずにはいられない作品でした。

デビュー作でありながら、審査員満場一致での江戸川乱歩賞受賞、異例の速さでの売り上げ記録、そして映画化もされており、当時の話題性がこの本の歴史から感じ取れます。

ちなみに映画は、元囚人の主人公が反町隆史さん、元刑務官役が山崎努さんと、大御所俳優さんが多数出演されている作品でした。

死刑制度の問題点、元刑務官南郷を描くことで伝わる刑務官の葛藤、死刑囚の裁判を担当していた検察官の葛藤、主人公三上純一の家族と純一が犯した罪の被害者とを描き伝わる加害者・被害者それぞれの目線での感情。さまざまな謎が解き明かされていく一方で、登場人物それぞれの立場での思いを忠実に描いており、その人間模様からよく考えさせられる本でもあります。

主人公三上純一と刑務官南郷正二

三上純一は傷害致死事件の加害者として服役していた。

3年6ヶ月の刑を受けた純一は模範囚として、2年での仮釈放となる。釈放されると、純一は、多額の賠償金と、殺人犯の家族のレッテルを貼られ、苦労した生活を送っていた家族を目の当たりにする。

南郷正二は刑務官だった。

看守長だった南郷は松山刑務所で服役していた三上の面倒を見ていた。刑務官をやっていると、死刑執行に立ち会う機会がある。南郷は自分が殺めてしまった人への罪の意識や死刑制度への疑問を抱えていた。

しばらくして、出所した純一の元に、突然南郷が現れる。
南郷は純一に、とある事件の死刑囚 樹原亮の冤罪を晴らすために協力してほしいという。冤罪を晴らした暁には、多額の報酬が待っていた。
家族の困窮を目の当たりにした純一には手伝わない理由がなかった。
依頼人は南郷も知らないらしい。

弁護士を通じで、純一と南郷はとある殺人事件についての調査を始めていく。

宇津木と佐村

この小説には、2つの被害者が登場します。
宇津木家と佐村家。
正確には2つの殺人事件に至るまで、さまざまな被害者が存在するのですが、それは書籍で読んでほしい。

宇津木家は死刑囚樹原の被害者、そして佐村家は三上純一の被害者だった。

樹原の罪はこうだった。

10年前、自分の保護司(犯罪を犯した人の更生のため面倒を見る人)だった宇津木耕平とその妻を惨殺した。現場からの逃走中に、バイク事故をおこし、それを偶然発見したのが、実家を訪れようとしていた宇津木の息子夫婦だった。携帯電話の普及していない時代で、息子夫婦は救急車を呼ぶために実家へ急ぐと、そこで両親の惨殺された姿を発見する。

バイク事故を起こした樹原は、事件前後の記憶を失っていたが、状況証拠が揃っていたため、樹原の犯行に間違いがないとして、死刑判決を受けた。

宇津木夫妻は、樹原の死刑執行を待ち望んでいた。

樹原の事件の調査のため、南房総へ出向いた純一は、そこが自分が殺めてしまった佐村恭介の故郷であることを思い出した。純一と南郷は、佐村の父、光男のもとを訪れた。

純一の罪はこうだった。

都内のバーで飲食をしていた純一は、そこで佐村恭介と出会う。佐村は純一に、何を見ていると言いがかりをつけ、襲いかかってきた。純一が振り払うと、佐村は転倒し頭を強く打って死亡してしまった。被害者から襲ってきたこと、純一には殺意がなかったこと、十分な反省の色があることから、傷害致死としての懲役判決を受けた。

純一は確かにあの日、人を殺そうとしていた。

佐村光男は純一の顔も見たくなかったと言ったが、同業者である純一の両親の誠意を理解し、純一を受け入れようとした。ただ、光男の純一への対応はどこか形式的なものだった。

2つの被害者の根底には、加害者を許せないという確かな憎悪が存在する。

拒絶し憎み続ける宇津木家と、憎しみを持ちながらも受け入れようとする姿勢を示した佐村家。双方の対応の違いには、十分な賠償金を受け取ることができたかできなかったか、という部分も関係しているような描かれ方でした。

佐村の本心については、小説を読み進める中で明らかになっていきます。

作品に散りばめられた伏線と謎

樹原亮は冤罪だったのか?

小説のキーポイントである樹原は冤罪だったのかどうか?
樹原本人に記憶がないため、純一と南郷が調査を進めます。
そこで浮上する可能性。
保護司の宇津木がやっていたことと、真犯人の可能性。
樹原の冤罪を取り巻くストーリーは、純一の南郷の調査を経て、明らかになっていきます。

依頼者の正体

南郷と純一に樹原の冤罪についての調査を依頼したのは誰なのか?
樹原の冤罪の可能性を知り、樹原に歩み寄った人物とは?その思惑は?
クライマックスまで、2人にはこの疑問が付き纏います。

純一の過去

純一には誰にも話していない過去がありました。
それを知るのは純一と、高校時代の恋人友里、そして・・・
純一の過去に迫ったとき、もう一つの事実の真相が明らかになります。

まとめ

憎しみの連鎖。

この小説ではこれを起因とした事件の連鎖が起こっています。
被害者の憎しみは、そうそう簡単に消えるものではないことを描かれています。

純一が犯してしまった罪についても、憎しみの連鎖によるものですし、そこから起こした行動に対して、純一は後悔していません。憎しみが原動力となって起こることは、良い方向でも悪い方向でも、恐ろしい結果が待っているものだなと。

小説としては、徐々に謎が明らかになっていくような類いのものではなく、最後までさまざまな伏線を張りつつ、クライマックスで一気に回収していくようなストーリー展開です。

シリアスなテーマを題材にした小説ですが、ミステリー小説としてはとても楽しく読める作品です。

https://number-369.com/genocide/
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