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石田衣良『波のうえの魔術師』を読んだ感想レビュー バブル崩壊後の金融界を舞台にしたマネーゲーム

yuu(ゆう)

今回は、石田衣良さんの『波のうえの魔術師』を読んだ感想を紹介していきます。

この本は、金融世界を舞台にした、主人公の青春と師匠の復讐の物語です。
銀行・証券会社・株式市場を舞台にしたマネーバトルの末に待っている結末が、切なくもあり爽快でもあり・・・

この作品は2002年にドラマ化もされており、そちらも面白かったですね。
ドラマ化されるだけあり、小説も読み応え抜群です。

それでは、『波のうえの魔術師』について紹介していきます。

石田衣良『波のうえの魔術師』のあらすじ

あの銀行を撃ち落とせ!謎の老投資家が選んだ復讐のパートナーはフリーターの<おれ>だった。寂れた下町の一角で、マーケットのAtoZを叩きこまれた青年と老人のコンビが挑むのは、預金量第三位の大都市銀行。知力の限りを尽くした「秋のディール」とは?そのゆくえは……。

Amazonより

『波のうえの魔術師』の書籍情報

著者石田衣良
発行日2001年8月
発行元文藝春秋
ジャンルサスペンス
著者のその他作品池袋ウエストゲートパーク・4TEEN・アキハバラ@DEEPetc

『波のうえの魔術師』の主要登場人物

白戸則道

この物語の主人公です。
大学を卒業するも、就職活動に失敗、就職浪人生活を送っていました。
パチンコに明け暮れる日々。そんな中で、小塚という紳士的な出立ちの老人と出会い、株式市場にのめり込んでいく。

小塚泰造

主人公に次いで重要な人物です。
作中では小塚老人と呼ばれています。
紳士的な老人だが、その正体は「伝説の相場師」とも呼ばれるほどの投資家であり資産家。
小塚老人は銀行の計画した事業に対して強い復讐心を持っており、白戸と協力してある計画を企てる。

保坂遥

まつば銀行に勤務する女性銀行員。
物語の中で白戸則道と出会い、互いに惹かれあっていく。
銀行に対する疑問を感じながら、白戸の計画に協力していく。

波多野テルコ

小塚老人の昔のガールフレンド。
夫を亡くしたことと、銀行が商品化していた保険制度の欠点の犠牲となったことでアルツハイマー症を患っている。

石田衣良『波のうえの魔術師』を読んだ感想とレビュー

それでは、『波のうえの魔術師』を読んだ感想とレビューを紹介していきます。
この小説は3章で構成されています。それぞれ見ていきますね。

第一章 波のうえの魔術師

この小説は、1998年のバブル経済崩壊後の低迷期にある日本。
いわゆる失われた10年の真っ只中の日本が舞台になっています。

大学を卒業後、就職浪人をすることになった主人公「白戸則道」。
パチンコで生活費を稼ぐことを日課としていた白戸は、とある出来事から老紳士「小塚泰造」と出会う。
白戸はこの老紳士小塚に自分の元で「秘書をしないか」と誘われる。
反社会的な胡散臭さを感じた白戸だったが、良い条件に惹かれて小塚の秘書として働くことになった・・・

小塚の自宅を訪れると、そこには老人には不釣り合いな立派なパソコンと大型のディスプレイが並んでいた。
ディスプレイには株式チャートが映し出されている。
白戸はこの小塚老人の元で株式投資を学びながら、小塚老人のとある計画に巻き込まれていく。

小塚老人の元で、白戸はメガバンク「まつば銀行」の株価を毎日チェックし、ノートを取り勉強を始めるのですが、そのまつば銀行の株価は400円台を推移しているので、メガバンクとしては今よりもだいぶ株価水準は低いですよね。
そういった部分で景気低迷期の状況が映し出されています。

また、白戸の就職浪人も、当時の時代背景を忠実に映し出した設定だと思いました。
1998年頃に就職を迎えた年代の人たちは、団塊ジュニア世代とも呼ばれていますよね。
バブル崩壊後の景気低迷による企業の求人活動の消極化と第二次ベビーブーム期に生まれた団塊ジュニア世代の人口の多さが、俗にいう「就職氷河期」という状況を生み出しました。

この作品の初版が2001年なので、その辺りの時代背景を忠実に設定に落とし込まれています。

第二章 曇り空のランダムウォーク

ここから、この小説の軸となる問題とそれに向けた小塚老人の計画が明らかになっていきます。

ある日白戸は、まつば銀行が起こした問題について知ることになる。
それは、バブル絶頂期にまつば銀行が販売していた「変額保険」。
相続税対策と銘打って販売されたこの保険は、土地や建物を担保に資金を融資し、その資金でまつば銀行が株式運用するというもの。
右肩上がりだった景気を理由に、このままいくと相続税だけで大変な額になる、資産を担保にまつば銀行が株式運用すれば相続時に必要なお金を残すことができると老人たちを説得し、保険へ加入させた・・・

ところが、バブル景気は崩壊。当然運用益など出せる訳もなく、保険加入者には借金だけが残った。
小塚老人の古きガールフレンド、波多野テルコもその被害者の一人だった。
小塚老人の復讐心の裏にある背景と、「秋のディール」計画について、一片ずつ明らかになっていく。

第二章では、白戸が急成長を遂げていきます。
株式市場のことを何も知らなかった白戸が、すでに小塚老人の下で株式運用をうまく進めていくんです。
物語の中では小塚老人との出会いは春、第二章の時期は夏頃でしょうか、たった数ヶ月ですごすぎます。
この辺りはリアリティにかけますが、小塚老人は伝説の相場師ですから、ありえるのでしょうか。

まつば銀行の変額保険制度はこの小説では悪者として取り扱われていますが、実際に昔このような問題があったのでしょうか?

変額保険自体は今でもありますけど、この小説の中での問題点は、財産を担保に多額の融資をして運用をするために、まつば銀行が相続税対策という老人にとっては痛い部分を突いた営業トークで、加入者によく理解もさせずに保険の販売を推し進めていったという点にあるんですかね。

第三章 秋のディール

小塚老人は「秋のディール」と称して、まつば銀行を陥れるための計画を実行に移す。
風説の流布による株価操作、メディア利用、大衆扇動
二の矢、三の矢を放ちまつば銀行を窮地へと追い込んでいく。
白戸は小塚老人を援護するために、まつば銀行の行員である保坂遥に近づいて、重要な情報を入手する。
「秋のディール」の先に待つ結末とは・・・

第三章では、小塚老人がついに計画を実行に移していくんですが、まあやっていることは法的にアウトです。
ただ、小説の内容としてはかなり爽快感がありますね。

小塚老人の仕掛けによってまつば銀行の株価はグングン下がっていきます。
この辺り、文章的な表現だけでなく、株価なので具体的数字で表されているところが、わかりやすくて読み手側には爽快感として伝わってきます。

個人的には最後の終わり方が非常に好きでした。
師匠と弟子の間に生まれる愛情のようなものが結末で一気に描かれているんです。
小説の中で最後の終わり方が一番のお気に入りポイントでしたね。

三章の内容についてはあまり語りすぎると盛大なネタバレになってしまうので、このくらいにします。

さいごに

この小説は、株式市場・銀行を舞台としたストーリーですが、金融知識のない方でも十分楽しく読めます。

極端な専門用語は使われていないですし、内容もかなり噛み砕かれてわかりやすくなっているのでとても読みやすいです。

ドラマの方も長瀬智也さん主演で見応え抜群なんですよね。
2002年に「ビッグマネー!〜浮世の沙汰は株しだい〜」というタイトルでドラマ化されています。
小説にはないオリジナルストーリーも組み込まれていて面白いですよ。

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