高野和明「ジェノサイド」の感想レビュー 伏線に伏線を張った知的ミステリー
高野和明さんの「ジェノサイド」を読みました。
2011年に単行本を発刊し、当時話題を呼んだミステリー小説です。
2021年現在、10年の時を経ても設定が古臭く感じることはなく、長編作品ですがまるで映画を見ているかのような感覚で読むことができ、読んだら一気に本の世界観に引きずり込まれてしまう。
そんな1冊です。
高野和明「ジェノサイド」のあらすじ
創薬化学を専攻する大学院生・研人のもとに死んだ父からのメールが届く。傭兵・イエーガーは難病を患う息子のために、コンゴ潜入の任務を引き受ける。全く関係のない2人の人生が交錯するとき、驚愕の真実が明らかになっていく。
「ジェノサイド」の書籍情報
高野和明「ジェノサイド」を読んだ感想とレビュー
わたしがこの本を購入したのが、2012年の夏頃でした。
これまで4回ほど読みましたが、何回読んでも面白いと思える作品です。
著者の高野和明さんは、もともと脚本家でもあり、小説家として単行本発刊に至ったのは、2001年のことです。
初めて読んだ際から、まるで映画のストーリのような流れとテンポで話が進んでいくなと思っていましたが、脚本家でもあると言うことを知って納得です。
この小説は、民間軍事会社傭兵のジョナサン・イエーガーと薬学部大学院生の古賀研人の2人が主人公としてストーリーが展開していきます。
基本的には交互に2人の主人公の状況を描いて展開していく構成になっているのですが、序盤のうちは、それぞれの接点がほとんどなく、よくわからないままシーンがコロコロ変わっていく海外ドラマのような流れになっています。
正直序盤は少し読むのに根気がいるかな、といった感じです。
これが読み進めていくうちにどんどん展開が混ざり合っていき、最終的にひとつの結末で繋がります。
ここはさすが脚本家と言いたくなる話の運び方だなと思いました。
ストーリーの軸になっている「ハイズマンレポート」
この小説の導入部分からキーワードとなっているものに、「ハイズマン・レポート」と言うものがあります。
これは、ハイズマンという学者がアメリカ政府に対して提案した、人類滅亡の要因と対策に関する報告書という設定になっています。
ハイズマン・レポートで言及されている、人類滅亡の可能性
このレポートは、ストーリーのために作者が考えたフィクションで、実際に存在するものではありません。
しかし、挙げられている5項目についてはリアリティのある内容になっており、現実的に起こりうる可能性のあるとされている話を題材とされています。
高度な創薬ソフト「GIFT」による創薬の短期化と簡易化
この小説の見どころとして、大学院生である古賀研人が、創薬ソフト「GIFT」を使って、不治とされている病気に対する特効薬を様々な出来事に翻弄されながら作り上げていくという部分があります。
このGIFTは、高度な知能を持つ進化したヒトが作成したもので、簡易的な作業で薬を作るための情報を導き出してくれるというものです。
小説の発刊から10年ほど経っていますが、様々な分野において、「自動化」が促進しており、
薬事業界の事は詳しくありませんが、GIFTのようなシステムも構築されていくんだろうと思います。
この部分においても、近い将来には実現しそうなリアリティのある設定をベースにされており、読んでいて違和感のない感じです。
政府の陰謀と次世代人類との知能バトル
アメリカ政府は高度な知能を持つ人類の誕生を発見し、ハイズマン・レポートで語られている、高度な知能による現生人類の排除を恐れて、より高度な知能を持たれる前に抹殺してしまおうと考えます。
そこで、送り込まれたのがジョナサン・イエーガーでした。
イエーガーは作戦の本質を知らないまま、進化した次世代人類のいるコンゴにいきましたが、そこで事態の本質を知ることになります。
進化した次世代人類は、アメリカ政府をハッキングし、すでに自身の身に危険が迫っていることを知っていました。
そこで手を打ったのが、送り込まれるジョナサン・イエーガーには不治の病で余命僅かの息子がいて、その薬を自分の力であれば作ることができると示すことでした。
そのために動いていたのは、古賀研人の亡くなった父であり、その意思を受け継いだ研人でした。
イエーガーは息子のため、進化した人類を守るために、アフリカから日本を目指すことになります。
その動きを察知した政府は、あらゆる手でイエーガーたちを阻止しようとしますが、進化した次世代人類はさらなる伏線を張っており・・・
伏線に伏線を張ったハラハラドキドキ展開が、小説の後半に待っています。
ゆっくりと読み進めていた前半と異なり、クライマックスへ向けて一気に展開が加速していきます。
まとめ
590ページの長編作品ですが、だらだらした印象は一切感じられず、最後まで一気に読み進めてしまいたくなる一冊です。
これはどういうことだろう、この先どうなるのだろうというワクワク感が読み進めていくにつれてどんどん増してきます。
ミステリー小説でありながら、研人の創薬活動やアフリカの紛争地帯を舞台にした脱出劇など、薬学・人類学・歴史などを盛り込んだ非常に内容の濃い作品となっています。
自分たちよりも高度な知能を取得した新たな人類とどう向き合っていくべきかを、様々な視点から描いており哲学的にも深いテーマを持った作品です。