小説

宇佐見りん「推し、燃ゆ」の感想レビュー 生きがいを失った少女の生き方の物語

yuu(ゆう)

宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」を読みました。
文学作品はあまり読まないのですが、史上3番目の若さでの芥川賞受賞作家という話題性もあり、読むべきと思ってこの本を手に取りました。

この小説は、アイドル推しの高校生が、「推し」ているアイドルを通じて、生きること、自分の存在意義、周囲の理解に一喜一憂していく様を、主人公の一人称の視点から、リアリティかつ繊細に描かれている作品です。

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宇佐見りん「推し、燃ゆ」のあらすじ

逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を“解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。

推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。

まだ詳細は何一つわかっていない。

印象的な書き出しからこの小説は始まっていきます。

主人公あかりはまざま座というアイドルグループの上野真幸(通称推し)を推していた。

彼を推すときは唯一あかりが生きがいを感じる瞬間であり、生きることであった。

それが、推しの不祥事をきっかけに、あかりの生活は転落を始める。

推し仲間からの評価と、家族からの評価のギャップ。

アイドルとしての姿と人としての自分。

推しを解釈することで、重なり合わさった自分と推しの何かが崩れていく中で、不器用なあかりはもがいていく。

「推し、燃ゆ」の書籍情報

著 者宇佐見りん
発行日2020年9月
発行元河出書房新社
ジャンル青春
受賞歴等第164回芥川龍之介賞
著者のその他作品かか               

宇佐見りん「推し、燃ゆ」を読んだ感想とレビュー

帯のコメントがすごい

未来の考古学者に見つけてほしい
時代を見事に活写した傑作

–朝井リョウ–

朝井リョウさんは岐阜県出身の小説家です。
直木賞受賞作家で、デビュー作の「桐島、部活辞めるってよ」は映画化もされている。人気作家さんです。

未来の考古学者に見つけてほしいというコメントがいいですね。
文学的で、繊細な文章から伝わってくる「推し、燃ゆ」の作品としての素晴らしさ、奥深さ。それを現代的なテーマの観点からストーリー化している点で、未来に残ってほしい作品だと言えます。

うわべでも理屈でもない命のようなものが、言葉として表現されている力量に圧倒された

–島本理生–

島本理生さんは、「リトル・バイ・リトル」「シルエット」「ナラタージュ」などで賞を受賞している小説家です。

「推し、燃ゆ」はアイドルを推すことに生きがいを感じ、生きることそのものとしていた主人公の切なさや葛藤を通じて、人間関係やその複雑化された社会で生きることの厄介さのようなものを描いた作品で、まさにうわべでもない、理屈でもない主人公の好きを通じて生きることを描いた作品です。

すごかった。ほんとに。

–高橋源一郎–

高橋源一郎さんも日本の小説家です。
明治大学院大学名誉教授であり、代表作に「さようなら、ギャングたち」などがあります。

個人的な感想にはなりますが、葛藤や切なさから人の喜怒哀楽といった人間模様を描きながらも、「推しが燃えた」ことの伏線めいた部分も終盤で回収されている、それもシンプルな結果論的な描写ではなく、ある意味抽象的に突き詰めれば深い意味を持った内容として最後が締め括られている。そういった点でほんとにすごかったと思います。

一番新しくて古典的な、青春の物語

–尾崎真理子–

尾崎真理子さんは、文芸評論家で、早稲田大学の教授です。

アイドル文化に焦点を当てた「推し、燃ゆ」。
テーマとしては、現代的で新しい文学的可能性を感じますが、
描かれているのは、もっと根本的な人としての生き方や悩みの部分。
主人公のアイドルを推すという生きがいは、主人公にとっての青春であり。
推しの起こした事件をきっかけに、崩壊していく主人公の青春と、そこから芽生える新たな価値観とか生きることへの執着心といった部分が描かれている点に着目したコメントだなと思います。

ドストエフスキーが20代半ばで書いた
初期作品のハチャメチャさとも重なり合う。

–亀山郁夫–

亀山郁夫さんは各教育機関の学長などを務められており、ロシア文学の専門家です。

ドストエフスキーについて詳しくないので、個人的にコメントを解釈することは難しいのですが、「推し、燃ゆ」は繊細なんですが結構ストレートな感情表現や主人公の気持ちを描かれている部分もあるので、そういった部分で若いエネルギーを感じ取れる作品とも言えるのかなと思います。

今を生きるすべての人にとって歪(いびつ)で、でも切実な自尊心の保ち方、を描いた物語

–町田康–

町田康さんは日本の小説家です。
数々の受賞歴があります。元ミュージシャンでもあるんですね。

仕事のあり方とか、好きの表現の仕方とか、時代の移り変わりによって多様化している一方で、人からの評価とか見られ方は世代の違いとか立場の違いとかで全然異なっていて、便利な世の中の中での認め合えるコミュニティーは確かに存在するんですけど、生身の人間同士の付き合いの中で認め合えるコミュニティーは出来上がりにくくなっているようにも思います。それでも認め合える場所としてインターネットとかに頼って、自分の生きがいとか自尊心を保ちあっている。今の世の中にはそういう側面もあるのかなと思いました。

すべての推す人たちにとっての救いの書であると同時に、絶望の書でもある本作を、わたしは強く強く推す。

–豊崎由美–

豊崎由美さんは、フリーライターで書評家です。

本作のテーマである「推す」ということ。そこに描かれている、「推す」人達の感情(怒り・悲しみ・喜び)が結構リアルだなと思いました。
何かを「推し」ている人にとっては、文章の深さとか難しさとか、活字が得意苦手とか関係なしに、感情移入できる部分もある作品なのかなと思います。
一方で、推しを失ってしまう絶望。「推す」ことでずっと身近に感じ、何よりも生きがいを感じてきた存在が消失してしまう絶望。これも、本気で「推し」ている人にとっては共感できる部分があるんだろうと。
「〇〇推し」という言葉が流行りはじめたのはまだ記憶に新しいですが、同時に「〇〇ロス」というワードも流行し、絶望し・悲観した人は会社に通勤できなくなったりもした。そんなリアルに存在する希望と絶望のような対になる部分を、本作ではうまく表現されているのだと思いました。

人の多面性と解釈

あかりは、「推し」である真幸を解釈し続けることに没頭しました。それが唯一彼女が没頭でき、生きがいと言えることだったからです。

あかりは、「推し」を推すことで、自分の存在意義を確立させていました。
勉強ができない、片付けができない、バイトでは失敗ばかり、自分をなまけものと揶揄するあかりにも、「推し」を推すことに関しては、真面目であり、整理整頓ができ、誰よりも熱心でした。
家庭では、学校では、バイト先では、「できない子」のレッテルを貼られていたあかりでも、推し仲間からは、落ち着いたしっかりものという評価を受けていました。
ブログという、インターネット媒体を通じた、半分フィクションのような世界でも、確かにあかりは人から認められていました。

人は複数の顔を持っています。
仕事での顔、家庭での顔、友人と会うときの顔、どれも確かに自分であって、でも、外から見れば自分ではないかもしれない。

人は多面性のある生き物で、ある人には優しかったり、ある人には冷たかったり。温厚な雰囲気をみせたり、でも逆上したら恐ろしかったり。勉強ができたり、スポーツが得意だったり、本が好きだったり。

人が誰かに見せている顔はほんの一部分でしかないと思うんです。自分以外の誰かは、あるいは自分自身でさえ、その人の多面性の中の一部しか解釈していません。そしてその解釈には、見る人の視座(立場による視点)が加わり、複雑化します。複雑化した無数の評価と、自己の評価とのギャップが、人を傷つけて、悩ませ、時には活力を与えてくれたりします。

大きな事件があったとき、ニュースでよく、「まさかあの人が」なんて言葉はもはやテンプレですが、あれも人の一面しか見えていないから言える言葉なんだなと思います。

または、普段付き合いの無いような仕事の上司から、「君は〇〇だからだめなんだ」と言われ、何もわかってないくせにと思う。これも視座の違いで、分かっていないのではなくてそう見えただけ。

どういう目線でどこにフォーカスするかなんですよね。
それが人を傷つけたり励ましたりして、人のいろんな表情を作っていくんだろうと思います。

その人が持つ顔、多面性のそれぞれで、苦しみがあったり、楽しかったり、哀しかったり。認められたり貶されたり。それぞれの顔にいろんな表情(出来事)があって、人はそのバランスを保つ事で生きているんだと思います。

あかりの事に話を戻します。

あかりの多面性のなかで、唯一他者から認められる場所が「推し」を推しているときでした。唯一自分が価値を見出し、自分を価値として認めてくれる場所が、「推し」が燃えたことにより崩壊していきます。そうして崩れ行く自分の世界に対して、バランスを取ることができなくなってしまった。あかりもその一人でした。

一方で、あかりの「推し」である、真幸も、アイドルとしての自分と人としての自分それぞれの姿を抱えており。
理解してもらえないもどかしさを感じていました。

個人的に、アイドルとして活躍する真幸の居場所は、真幸自身にとって、居づらい場所だったのかなと感じました。それが、真幸が人へ変わった瞬間の、一人称の言葉の変化に現れていて、作り込んでいた自分を崩壊させた瞬間だったのかなと思います。

死ぬこと、生きること

作中では、祖母の死や、お盆など、死に関連するワードが出てきます。
そして、「推し」を失ってしまったあかりは絶望し、目に止まった綿棒を床に叩きつけます。

綿棒をひろった。膝をつき、頭を垂れて、お骨をひろうみたいに丁寧に、自分が床に散らかした綿棒をひろった。綿棒をひろい終えても白く黴の生えたおにぎりをひろう必要があったし、空のコーラのペットボトルをひろう必要があったけど、その先に長い道のりが見える。

宇佐見りん「推し、燃ゆ」作中より

「推し」を失った喪失感を、「推し」を推すことを生きることとしてきたあかりの中では一つの死と捉えているのではないか。生物学的な死ではなく、一つの区切りとして。

人が亡くなったとき、残された人は、悲しみに暮れ、時に絶望し、さまざまな感情が心の中を巡ります。いずれそれは、思い出となり、想いとなり、人に生きていく大切さを説きます。失うことが、その先を見据えることのきっかけになったり、転機になったりします。

人の心は安定を好むので、上手くいっていることはこのまま続けばいいと思います。それが途絶えてしまったときは、焦り・悲しみ・絶望したりします。それでも、生き続ける以上は、新しい先を見にいかなければなりません。

失うことで初めて、自ら変化を選ぶことができるとも言えるかもしれません。

これまでは、「推し」を推すことだけが自分の生きがいであり、人生そのものという人生観を持っていたあかり。自分がなぜ勉強が苦手か?なぜ片付けができないか?なぜ就職活動ができないか?
「推し」以外には興味もやる気も出ず、自分が何なのかさえ曖昧で、2つの病名のせいにして向き合おうとできなかったあかり。

「推し」を失ってしまったことを自覚すること(作中で、あかりはある場所であるものを見てしまいます)が、取り残された自分も生き続けなければならないことを考えるきっかけになったのだろうと思いました。

綿棒をひろうという行動は、お骨拾いを表しており、それは、失ってしまった「推し」と推しがいることで確かに存在していた一人の自分、一つの世界の終わりを表しているんだと思います。

そして、カビの生えたおにぎり、空のペットボトルは、これまであかりが目を背けてきたもの・ことであり、自分自身で遠ざけてしまっていたもう一つの自分の顔を表しているのだと思いました。

そしてその先に長い道のりが見える。
自分自身が遠ざけていたものの先に長い道のりがある。
あかりはようやく、自分自身の多面性に目を向け、「推し」のいない世界で生き続ける覚悟をしたのだろうか。

自分を客観視することが苦手で、「推し」以外を自分の生きる理由から排除していたあかりが、「推し」の喪失をきっかけに、メタ認知的な見方ができるようになり、生きるために立ち上がろうとしている。ここに、あかりの精神的な成長を感じました。

まとめ

「今」を特徴的に表現されている小説ですが、人間や社会を深いところで捉えて物語に落とし込んでいる作品だと思いました。

アイドルを推すというテーマのもと描かれていく物語ですが、そこに、周囲の理解とか軽蔑のまなざしとか、好きなことをしているだけなのに、ある種の固定概念みたいなものに外側から押しつぶされそうになったり。

生きる術だったり、生きがいだったりするものが、社会の理解があるかないかで、はぐれ者扱いされて、生きがいが生きづらさのもとになったりする。そういった部分を、現代の若者の視点で繊細に表現した作品だという印象を受けました。

タイトルとか、ストーリーのテーマとか、書籍のデザイン的には若者ウケしそうな感じに仕上がっていますが、中身はとても深い課題を持った作品です。

タイトルのインパクトよりも、もっと深くて心に残る内容の小説になっているので、是非読んでみてください。

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