道尾秀介「雷神」の感想レビュー 大どんでん返しの先にある哀しい結末
こんにちは。
yuu(@yu_yu211)です。
今回は、道尾秀介さんの『雷神』を読んだ感想を紹介していきます。
人気の絶えないミステリー小説家、道尾秀介さんの2021年最新作です。
絡み合う偶然から生まれた思い違いはやがて大きな悲劇を招く結末へと繋がります。
道尾秀介さんの作品はいつも結末が読めません。
今回も大どんでん返しのそのまた先に哀しい結末が待っていました。
『雷神』も読み応え抜群の極上ミステリーでした。
それでは『雷神』について紹介していきます。
道尾秀介『雷神』のあらすじ
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕実を守るために……。なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇――。ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。
新潮社HPより
ストーリーの要点を、パネルにまとめました。
『雷神』の書籍情報
著者 | 道尾秀介 |
発行日 | 2021年5月 |
発行元 | 新潮社 |
ジャンル | ミステリー |
著者のその他作品 | 月と蟹、カラスの親指、向日葵の咲かない夏etc |
道尾秀介『雷神』を読んだ感想とレビュー
それでは、『雷神』を読んだ感想とレビューを紹介していきます。
ネタバレになりすぎないように、気をつけて話をしていきますね。
偶然と思い込みが生んだ悲劇
道尾作品の代名詞とも言っていいくらい、「思い込み」を利用した言葉・心理トリックがこの『雷神』にもたくさん詰まっています。
15年前の妻の死
突然現れた謎の男
31年前の母の死
30年前の祭りでの事件
主人公藤原幸人を取り巻く事件は、姉と娘と30年越しに訪れた故郷の村で、真相が明らかになっていきます。
幸人が再び村を訪れることになったのも、母の亡くなった病室で父が言った一言も、あの事件の犯人も…
思い込みの中で見逃していた部分は、伏線としてクライマックスで怒涛のように回収されていきます。
ほんとに、読み応えが抜群すぎます。
漢字のトリック
「田」の棒を2本動かして生き物にしてください。
真相究明のヒントであるかのように出てくる問い。
幸人の名前に隠された由来。
そして、自殺した宮司さんが残した真犯人を示す手紙。
ここでかなり踊らされました。
もしかして犯人は…
と思っても、まあ当たりはしません。
こういう簡単なトリックをネタにして揺さぶりをかけてくるあたりが、道尾さんの作品の好きなところですね。
ちなみに、「田」の字から棒を2本動かして作れる文字は「虫」です。
記憶喪失
この小説の一番のポイントとも言えるのが記憶喪失です。
雷に打たれた幸人と亜沙実ですが、幸人は記憶の一部を、亜沙実は片耳の聴力を失います。
記憶を失った幸人は母が死んだ時、事件が起きた時の記憶は曖昧で、30年の時を経ても思い出せていないものがあります。
事件の記憶自体も、目が覚めてから見聞きした記憶でした。
この記憶喪失が、事件が起きてから30年もの間犯人すら特定できずにいる事件の真相の鍵となっている部分です。
「なるほどそうくるか」という展開でした。
プラトンの「洞窟の比喩」
小説の目次ページに載せられた言葉。
「……こうして彼らは、囚人を開放して上のほうへ連れて行こうと企てる者に対して、もしこれを何とかして手のうちに捕らえて殺すことができるならば、殺してしまうのではないだろうか?」
「ええ、きっとそうすることでしょう」と彼は答えた。
—プラトン『国家』—
道尾秀介「雷神」新潮社より
何か意味があるのだろう、そう思い読み進めると、物語の後半で納得がいきます。
作中にも登場しますが、プラトンの洞窟の比喩とはこういうお話です。
洞窟の比喩
洞窟の中に、生まれた頃から手足首を縛り付けられて暮らす何人かの囚人がいる。
囚人は壁に向かって座らされている状態で、その壁だけを見て生きている。
後ろを振り返ることはできない。背後では炎が燃えている。
そして囚人とその炎の間では、動物や人の人形が動いていて、囚人が見る壁にはその影が映し出される。
囚人たちにとってはそこに映り、見えているものが彼らにとっての世界の全てである。
ある日、囚人の一人が縄を解かれて洞窟の外へ連れ出される。
外に出た囚人は、眩しい太陽の光に目が眩見ますが、次第に見えるようになり、やがて本当の世界を目の当たりにする。
そして、これまで自分が見てきたものは影だったと認識する。
彼は洞窟の中にいる囚人に哀れみを覚え、洞窟に戻り外の世界について伝えたいと考える。
しかし、外の光に慣れた彼の目は、今度は洞窟の暗闇でものが見えない状態になってしまう。
中にいた囚人たちは、彼が外に言ったせいで目が見えなくなってしまったと思う。
彼から外の世界についてどんなに素晴らしさを語られようと、外の世界に行くことを拒んでしまう。
自分を外に連れ出そうとするものがいるならば、殺してでも止まりたいと考える。
どうにか仲間を外に連れ出したい彼は、結局、仲間の囚人とともに洞窟で暮らすことになる。
この洞窟の比喩を用いた解釈で、物語のクライマックスの大どんでん返しが展開していきます。
「本当は、外に出た囚人は、見てはいけないものを見てしまったんじゃないか。だから彼は、洞窟に戻って、みんなといっしょに偽物の世界を見ながら暮らすことを選んだんじゃないか」
道尾秀介「雷神」新潮社より
抑え込まれた感情が解放され、起きてしまった30年越しの事件。
犯人が取った最後の行動は、復讐と後悔、さまざまな感情が入り混じった自分に蓋をすることを意味したんじゃないかと思う。
繋がってしまった
物語の中には複数の謎が存在します。
それがクライマックスで一気に繋がっていきます。
妻の死の理由をネタに脅してきた謎の男
母の死の真相
毒キノコ事件の犯人
30年後の今起こった事件
それぞれの事件の謎の裏に、人の優しさが垣間見える。
優しさによって隠された真実は、衝撃の結末を迎えます。
結末のその先に待っていたのは、さらに辛い結末でした。
「お日さまにあてた方がおっきくなるんだよ…」
大どんでん返しのその先の大どんでん返しに、
ただただ深い息がでました。
さいごに
あの時気づいていれば、あの時こうしていれば
不運と後悔の末に、それは神という絶対的存在によってもたらされてしまったのではないかと考える主人公。
葛藤・正義・愛情の中で、正しさを導き出すことができなくなり、未来を神に委ねた登場人物たち。
そして哀しい結末の先に、追い討ちをかけるようにやってくる事実。
衝撃のラストには胸をえぐられます。
ミステリーを読んでのドキドキ感だけではない感情が読後に溢れ出てきました。
さすがは道尾秀介と言わざるを得ない、極上のミステリー小説です。
最後の展開はちょっと『ラットマン』っぽいところもあるかなと思いました。
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