小説

道尾秀介『スケルトン・キー』の感想レビュー 「違和感の真実、見抜けますか?」人生を奪われたサイコパス、これは復讐の物語ではない…

こんにちは。
yuu(@yu_yu211)です。

今回は、道尾秀介さんの『スケルトン・キー』を読んだ感想を紹介します。
『スケルトン・キー』は文庫版が2021年6月15日に発売されました。
単行本は2018年7月の刊行ですね。

カドフェス2021/手に汗にぎる!作品としてもエントリーされている作品です。
文庫化されたということで、手にとった方も多いんじゃ無いかな?

道尾秀介さんの代名詞とも言えるのが、叙述トリックからくる大どんでん返し。
最後の最後まで驚かされっぱなしの作品が多いです。
『スケルトン・キー』はどうでしょうか?

それでは、『スケルトン・キー』について詳しくご紹介していきます。

この本はこんな人におすすめ

  1. ミステリー小説が好きな人
  2. サイコサスペンスが好きな人
  3. 疾走感のある小説が読みたい人

小説・ビジネス書・ラノベ
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道尾秀介『スケルトン・キー』のあらすじ

僕は自分から何かを奪う人間を許さない――。

かつてないドライブ感と衝撃。予測不能のダークミステリ!

19歳の坂木錠也(さかき じょうや)は、ある雑誌の追跡潜入調査を手伝っている。
危険な仕事ばかりだが、生まれつき恐怖という感情が欠如した錠也にとっては天職のようなものだ。
天涯孤独の身の上で、顔も知らぬ母から託されたのは、謎めいた銅製のキーただ1つ。
ある日、児童養護施設時代の友達が錠也の出生の秘密を彼に教える。

それは衝動的な殺人の連鎖を引き起こして……。

KADOKAWA WEBサイトより

『スケルトン・キー』の書籍情報

著者 道尾秀介
発行日 単行本:2018年7月 文庫本:2021年6月
発行元 KADOKAWA
ジャンル ミステリー
著者のその他作品 雷神、月と蟹、カラスの親指、向日葵の咲かない夏etc

道尾秀介『スケルトン・キー』を読んだ感想とレビュー

それでは、『スケルトン・キー』を読んだ感想とレビューについてお話していきます。

以降ネタバレ要素を含むので、まだ読まれていない方は、読んでから記事をお読みいただくことをおすすめします。

スケルトン・キーに隠された謎

小説のタイトルにもなっている、「スケルトン・キー」。
道尾秀介さんの作品のタイトルには、物語に置いてかなり重要な意味が込められています。
今作においても同様です。

「スケルトン・キー」とは、円筒状の軸の先に一つの歯がついた鍵のことです。
以下の画像のような、昔ながらの鍵。

現在においては、合鍵や万能鍵の意味としても用いられることがあるようです。
この小説のキーワードとなるのが、「スケルトン・キー=合鍵」です。

予期せず起こって行く殺人事件、展開が進むとともに読者は違和感を感じることになります。
違和感の正体は物語の第三章で明らかとなります。
隠された真実を中盤で見抜けた人はいないんじゃ無いかな?

小説の中では終始一人称で話が展開していきます。
これがまた面白くもあり、読むのが大変でもあり。
読んでいて少しぼーっとしたりする瞬間があると混乱しますね。

最後まで読まれた方はわかると思います。
「僕」という一人称で描かれた描写と、「スケルトン・キー(合鍵)」の意味が終盤で繋がってきます。

散りばめられた叙述トリック

この作品も間違いなく、数々の叙述トリックによって読者のミスリードを誘う作品です。

恐怖を感じず危険を顧みないサイコパス錠也
サイコパスな一面を抑えるために錠也が服用している薬
青光園での錠也の過去
鏡に映った自分
違和感を感んじる描写

これらによって、強い先入観を植え付けられることになります。

サイコパスである錠也が殺人を犯した、けど何か違和感がある。
薬…鏡…
もしかして錠也は多重人格?

こんな発想が頭によぎります。
ちなみにこの考えが浮かんだ人は完全に騙されましたね。

シュードネグレクト効果(疑似無視)

シュードネグレクト効果とは、
人間は視野の半分を重要視していて、もう一方は無視されがちという認知傾向のことを言います。

小説の中でも、この効果についてひょんなことから始まったひかりと錠也の会話の中に登場します。

以下の絵を見てください。

どちらが笑っているように見えるでしょうか?
大半の人はAの方が笑っているように見えると答えるはずです。
簡単に言えば、これがシュードネグレクト効果です。

人間の脳が体を支配する領域は、右半身は左脳、左半身は右脳であるとも言われていますよね。
人間は、右眼から入ってきた情報の処理は左脳で、左眼から入ってきた情報の処理は右脳で行います。

次に以下の絵を見てください。
有名な、モナリザの絵画ですね。
作中でも登場します。

どちらが笑っているように見えるでしょうか?
先程の絵と同様、モナリザもAの方が笑っているように見える人が多いはずです。

いずれの絵も、左側の口角が上がっているように描かれています。
映像の処理をするのは右脳の方が得意なので、左側の視野に映っているものがより強く認識され、左側の口角が上がった絵の方が笑っているように見えるということです。

恋愛テクニックなどで、相手の左側に座った方が良いとか言われるのは、この効果に由来しているわけなんですね。

ちなみに私にはBの方が笑っているように見えます…

このシュードネグレクト効果ですが、小説の中では見えていないものの存在を示唆しているのでは無いかと思われます。
小説の終盤で、全ての謎が明らかになっていくのですが、その時に気づくはずです。
そして、一度読み返してみるとより鮮明に感じるはず。
見えていない存在が確かにそこにあったことに。

伏線になっているポイントを紹介

「スケルトン・キー」の中では伏線になっているポイントがいくつも存在しますが、おそらく初見で読み進めているタイミングでは気づけないはずです。
あからさまに伏線であることを示唆するような表現はされていないので。
読んでみて、これが伏線になっていた!
読み返してみたら確かにそうだ!
と思った序盤のポイントをいくつかご紹介します。

大宮駅で同じように鏡を覗いた時、そこには見慣れた僕自身の顔があった。その後ろには、仕事を終えたスーツ姿の男の人たちがいた。ところが、今目の前の鏡に映っているのは、僕でもなく、背景でもなく、二つの目だった。

スケルトン・キー/道尾秀介著/KADOKAWA p62

錠也が精神的に錯乱した結果、幻覚のようなものを目の当たりにしたのかと読み取りましたが、違いました。
あたかも幻覚やとんでもない事実を知ってしまう前後の自分を対比した表現であるかのような書き回しに騙されました。

「…錠也くん?」
フェンスの向こう側から戸越先生が近づいてくる。
「あやっぱり錠也くん。少し痩せたのねえ。え何、また遊びに来てくれたの?」

明確な不安がそこにはあった。その表情を見て僕は、書類はこの人に見せてもらおうと決めた。

スケルトン・キー/道尾秀介著/KADOKAWA p65,66

また遊びに来てくれたの?
錠也はそれほどまでに施設に対して良い思い入れがあったのか?
間戸村と出会ってから一年間、「友達」という言葉も口にしたことがなかった錠也が施設に足を運んでいたのだろうか?

そして、表情をみて、書類はこの人に見せてもらおうと決めたという言葉。
長年施設で育った錠也が先生のことをこの人という表現をするだろうか?
自分に情報を与えてくれそうな、長年付き合いのある人間を、表情をみて判断するだろうか?

ここにはかなりの違和感がありました。

それでも、錠也にとっては冷静でいられる状況ではなかったのだろうと解釈しましたが、見事に伏線の一つとなっている部分でした。

青光園の見た目は、小ぶりの学校みたいだが、入り口に門はない。まだ記憶に新しいその入り口を、僕は抜け、園庭に立つ戸越先生のほうへ近づいていった。

スケルトン・キー/道尾秀介著/KADOKAWA p66

1年と少し前に施設を旅立った錠也の主観的見解として、「まだ記憶に新しい」という表現は納得がいきました。
しかし、長年青光園で暮らしてきた錠也が施設の説明をするのに、小ぶりの学校とか入り口に門はないとか、ありきたりな外観の話をするだろうか?

スマートフォンを握ったまま仰向けに倒れたら、後頭部に何か硬いものがあたった。さっきまでマリオやルイージを操作していたコントローラーだった。

菓子パンの空袋。食べ終わったカップラーメンやカップうどんの器。コンビニエンスストアのおでんの容器。割り箸。プラスチックのスプーンとフォーク。プリングルスの筒が二つ。

スケルトン・キー/道尾秀介著/KADOKAWA p77,78

ここもよく考えれば違和感しかないんですよね。

マリオやルイージ。
カップラーメンやカップうどん。
スプーンとフォーク。
プリングルスの筒が二つ。

初見で読んでも気づけないヒントがこんなところにありました。
何せ田子の殺害は昨日の話だったのですから、食事の量が多すぎます。

そして2つを連想させる描写。
完全に見逃していましたが、振り返るとこういったところにヒントが書かれていたことに気づきます。

僕は床に寝転んで天井を見上げたまま、もう一人の自分とかたちばかりの協議を交わした。

スケルトン・キー/道尾秀介著/KADOKAWA p79

完全に答えを言ってしまっていました。
しかし先入観に囚われて読み進めている私にとっては違和感を感じなかった部分です。
こんなにはっきりと書いているのに。

『スケルトン・キー』では他の著者の作品よりも、ストレートにヒントが描かれていたことが、振り返ってみるとわかります。
それでも読者は見抜けない。
道尾秀介さんの圧倒的センスとテクニックが光ります。

この小説から学べること

最後に、この小説から学べるポイントを整理します。
この小説から学べる内容は大きく、以下の2点です。

この小説から学べること

  1. シュードネグレクト効果(疑似無視)がわかる
  2. サイコパスの心理や性質がわかる

シュードネグレクト効果については、前述した通りですね。
脳の支配分野の違いが、視覚的情報の判断に影響するという現象のことを指しています。
詳しくは上に戻って見てくださいね。

また、サイコパスの心理や性質などについても、小説の中で記述されています。
サイコパスは遺伝するとか、鉛が人を暴力的にする可能性があるとか、心拍数が与える影響とか。

いずれも、研究的に可能性があるとされている事実だそうで、この辺りも単なるフィクションではなく、現在の科学における事実をもとにしている点は素晴らしいですね。

『スケルトン・キー』を執筆されるにあたっては、以下の文献を参考とされています。

『ブレーメンの音楽師 グリム童話集Ⅲ』植田敏郎訳(新潮社)

『サイコパス』中野信子著(文藝春秋)

『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲著(新潮社)

『サイコパスという名の怖い人々』高橋紳吾著(河出書房新社)

『暴力の解剖学 神経犯罪学への招待』エイドリアン・レイン著 高橋洋訳(紀伊國屋書店)

『児童養護施設と社会的排除 家族依存社会の臨界』西田芳正編著 妻木進吾・長瀬正子・内田龍史著(解放出版社)

『宝くじで1億円当たった人の末路』鈴木信行著(日経BP社)

『脳には妙なクセがある』池谷裕二著(扶桑社)

さいごに

『スケルトン・キー』はこれまでレビューしてきた、「雷神」とも「ラットマン」とも「片眼の猿」とも違っています。
道尾さんのあっと驚く作品って割と後出しじゃんけん的な要素が強いものが多くて、これがここに繋がってくるのか!
という爽快感があるのですが、『スケルトン・キー』においては序盤のうちからガッツリとヒントが書かれています。

そこに視野を向けることができるかどうかがキーポイント。

各節に振られている漢数字番号にもヒントが隠されているので、気づいていない方は確認して見てくださいね。

作中に出てきたシュードネグレクトの話は、半分の視野に囚われて小説を読み進めようとする読者に対するヒントでもあり、挑戦状でもあったのかもしれないですね。

ダークなんだけど軽快で、サイコなんだけど最後は人間味が溢れていて、とっても魅力的な一作でした。

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